2026年4月16日 12 分で読めます

World IDがもたらす収益の可能性

World ID(ワールドID)がもたらす収益の可能性

デジタルプラットフォームのビジネスモデルは、ボット、偽アカウント、ディープフェイクによって脅かされており、その問題は急速に悪化しています。Worldの人間証明技術は、プラットフォームがユーザーが人間であることを、プライバシーを保護しながら確認できることで、オンライン上の信頼回復を支えます。これにより、プロダクトの体験やユーザー維持率の向上、獲得コストの低下、広告収益の増加、他プラットフォームとの差別化を通じて、プラットフォームのユーザーベースやユーザーごとの収益向上につながります。最新のWorld ID 4.0により、認証情報の発行者とWorldプロトコルは、World ID手数料を通じて人間証明技術の利用から収益化が可能になります。一般的なモデルとしては、World IDを利用するアプリケーションが手数料を支払い、エンドユーザーは無料で利用できる仕組みになります。影響を受ける産業はソーシャルメディア、マッチングアプリ、チケット販売、銀行など多岐にわたり、数十億人のユーザーを抱え、年間数兆ドルの収益を生み出しています。こうした背景から、World IDには大きな収益機会が見込まれます。

AIがインターネットの基盤を揺るがしている現状

デジタルプラットフォームは、参加の大半が実在する人間によるものであるという前提のもとに築かれてきました。しかし、その前提は崩れ始めています。ボットが人間のように振る舞うためのツールは、今やテキスト、音声、動画のあらゆる場面で、ユーザーやプラットフォームを欺ける水準に達しています。2025年のチューリングテストでは、GPT-4.5が73%の確率で人間と判定されました。音声の分野では、AI生成の音声クローンを正しく見分けられたのは約60%にとどまり、2024年のメタ分析でも、ディープフェイクを人間が見抜ける精度は偶然をわずかに上回る程度であることが示されました。さらに、こうしたディープフェイクツールは、低コストで広く出回っており、誰でも容易に使えるようになっています

人間とボットを見分けられないことは、インターネット上の信頼を大きく損ない、デジタルプラットフォームのビジネスモデルそのものを揺るがしています。最近では、Xのプロダクト責任者が、Xが毎分200件を超えるボットアカウントを停止していると述べました。2023年には、クイーンズランド大学の研究で、Xが「さまざまな形のプラットフォーム操作で溢れている」ことが示されました。さらに2025年には、チューリッヒ大学の研究者がRedditで行った調査で、AIボットは、人間と比べて3倍から6倍の確率でユーザーの意見を変えることに成功したことが明らかになりました。これは、悪意ある主体がボットを使って特定の集団の意見を体系的に操作できる可能性への懸念を、さらに強めるものです。また、本物のスマートフォンを大量に並べた「ボットファーム」が、SNS上の人気を偽装するために国家主体やその他の集団によって利用されていることも広く知られています。こうして作られた人気は、アルゴリズムを操作し、作られたストーリーを本当に人気があるかのように見せかけます。信頼が損なわれると、エンゲージメントの質は低下し、ユーザー維持率は弱まり、獲得効率は悪化し、収益化も難しくなります。

企業はすでに、こうした問題への対策に莫大な資源を投入しています。Impervaの調査によると、ボット攻撃による直接的な経済的損失は年間最大1,160億ドルにのぼります。広告詐欺による損失は約1,400億ドルとされ、2028年には1,720億ドルに達すると予測されています。Europolも最近、AIが前例のない高度さと規模で「オンライン詐欺のパンデミック」を加速させており、他の重大かつ組織的な犯罪を上回ると予想されていると警告しています。

自律型AIエージェントの進化によって、この問題はさらに桁違いに悪化しようとしています。詐欺師の手に渡れば、AIエージェントは長期間にわたる会話で被害者を欺き、コメント、いいね、複数のプラットフォームにまたがるメッセージ送信などを戦略的に組み合わせながら、一貫した行動プロファイルを築き上げ、本物の人間と見分けがつかない存在になっていきます。これは、既存の防御策が、欺きが比較的高コストで、規模も限られていた時代を前提に設計されており、AIが安価に、説得力をもって、あらゆるチャネルで人間の行動を模倣できる現実には十分対応できていないためです。

人間証明:オンライン上の信頼を回復するための新しい技術

World IDプロトコルは、AIがもたらす問題の根本に取り組むために設計されました。インターネット上の信頼を回復するには、オンラインコミュニティの参加者がボットではなく人間だとわかることが前提になります。World IDの中核にあるのは、人間証明の認証情報で、Orbによる認証を通じて生成されます。これにより、プラットフォームは、ユーザーがAIではなく一人の人間であることを、プライバシーを保ちながら確認できます。

重要なのは、World IDの人間証明は、単なるIDや認証サービスの一つではなく、オンライン上の信頼を回復するためのインターネットの新たな基盤レイヤーです。World IDプロトコルによって、あらゆる組織(企業や政府機関など)は新たなWorld ID認証情報(たとえば信用レポートや大学の証明書など)を発行でき、個人はそれを自身のWorld IDに紐付けることができます。企業は、既存の認証サービスや本人確認の仕組みを従業員のWorld IDに紐付けることもできます。

World IDは、個人情報を明かすことなく、自分に関する情報を共有できる仕組みです。たとえば、Orbで認証されたユーザーは、人間証明の認証情報を使って、アプリケーションに「人間であること」を証明できます。パスポート認証情報を追加したユーザーは、「18歳以上」または「米国市民」といった情報も証明できます。認証情報は組み合わせて使うこともでき、たとえば「18歳以上の人間」といった複合的な証明を、他の情報を明かすことなく行えます。World IDプロトコルはゼロ知識証明によって実装されているため、ユーザーは自分の個人情報を中央の管理者に預ける必要がありません。

信頼できる人間証明の必要性を見据え、多くの先進的な企業がすでにWorld IDと連携しています。たとえば、eスポーツ大会のリーダーであるRazerや、オンラインマッチング分野の先駆者であるMatch Groupなどです。現在までに、約1,800万人のユーザーがOrbで人間認証を完了し、World IDを使ってオンライン上で人間であることを証明しています。

現時点では、ボットと人間を、プライバシーを保ちながら、堅牢かつ拡張可能な形で世界規模に区別できる技術は、ごく限られています。CAPTCHAや行動検知は、現代のAIによって簡単に回避されます。IPベースのレート制限や、クライアント側の端末情報を使った識別(フィンガープリンティング)も、単独の防御策としての信頼性をますます失っています。たとえば、現代のボットはIPアドレスを切り替えてレート制限を回避できる一方で、ブラウザのプライバシー保護機能や偽装ツールによって、フィンガープリンティングによる識別の精度も低下しています。eKYCはユーザーに大きな負担とプライバシー上のリスクをもたらすうえ、世界には検証可能な政府発行の本人確認書類を持たない人も多く、グローバルに利用できる手段ではありません。そのため、World IDの人間証明は独自の立ち位置にあります。詳しくはこちらをご覧ください。

人間証明がプラットフォーム収益を高める仕組み

World IDの人間証明を大規模に導入することで、オンライン上の信頼回復が進みます。これはユーザーとプラットフォームの双方に大きな価値をもたらしますが、特に測定しやすいのはプラットフォーム側です。World IDと統合することで、プラットフォームは、(a) プロダクト体験とユーザー維持率の向上、(b) ユーザー獲得コストの低下、(c) 広告収益の増加とクリエイター収益性の改善、(d) 他のプラットフォームに対する競争優位性を通じて、ユーザー基盤の拡大とARPU(ユーザー当たりの平均収益)の向上を実現できます。

プロダクト体験の向上とユーザー維持率の改善:ユーザーは、そのプラットフォームには人間ではなくボットばかりがいると感じると、離れていきます。たとえば、大手マッチングアプリ10社では、2023年から2024年にかけてユーザーエンゲージメントが16%減少しました。同じ時期に、マッチングプラットフォームへのボット攻撃は2,000%以上増加しています。2025年の調査では、マッチングアプリ利用者の10人に6人が、少なくとも一度はAI生成の会話に遭遇したと考えていることがわかりました。World IDはこの問題の解決に役立ちます。これは、オンラインマッチングアプリの先駆者であるTinder(Match Groupが所有・運営)が、日本でWorld IDの導入を試験的に進めている理由の一つでもあります。認証済みユーザーは、Tinder上で認証ヒューマンバッジによって目立ちやすくなり、5つのブーストを受け取れます。しかし、その効果は単なる維持率の向上にとどまらず、参加そのもののにも及びます。価値が真正な人間の参加に依存するあらゆるプロダクトにおいて、ボットの存在は体験を損ない、健全な環境を損ないます。参加者全員が実在する人間であるソーシャルフィードは、より良いコンテンツと、より正確なレコメンドを生み出します。すべてのプレイヤーが人間であるオンラインゲームでは、より公平なマッチングが実現します。レビューが実際の購入者によって書かれるECプラットフォームでは、より良い購買判断が可能になります。いずれの場合も、World IDは真正なユーザーを維持し、悪質な行為者を排除し、すべての人にとってプロダクト体験を向上させることで、より信頼できる、価値の高いユーザーコミュニティの形成を可能にします。

ユーザー獲得コストの低下:ボットの存在や信頼の低下は、コンバージョンにつながらないトラフィックへの支出を増やし、ターゲティング効率を損なうことで、ユーザー獲得コストを押し上げます。その結果、新規ユーザーの獲得も難しくなります。World IDの人間証明によって、プラットフォームは、信頼できる場であれば参加し、課金し、継続的に利用したいと考える潜在ユーザーによる新たな収益機会を取り込めるようになります。こうした潜在需要を取り込めるだけでなく、人間証明は顧客獲得にかかる支出の効率も高めます。無料トライアル、登録ボーナス、プロモーション、紹介特典は、いずれも実在するユーザーを獲得するために設計されています。人間証明があれば、こうした施策を実際の人間に届けることができるため、ボットや重複アカウントに浪費されていたマーケティング費用を削減でき、あらゆる獲得チャネルでコンバージョン率の改善にもつながります。さらに、特典やボーナスが本当に「一人につき一回」に限定されることで、施策の効果はさらに高まり、より効率的なプロモーションを通じた成長が可能になります。

広告収益の向上とクリエイター収益性の改善:広告主は人間の注意を引くことに対して費用を支払っていますが、実際には一定割合の広告が人間ではなくボットに消費されています。広告詐欺による損失は年間で推定1,400億ドルにのぼります。人間証明は、プラットフォーム、広告主、クリエイターのすべてに価値をもたらします。プラットフォームは、インプレッションが実在する人間に届くことを保証できることで、「認証済み人間」向けの枠をより高い単価で提供できます。認証済み人間からコンバージョンを獲得できる広告主は、マーケティングROIをより正確に測定できるようになり、継続的または追加的な広告投資を正当化しやすくなります。これが、日本第2位の広告会社である博報堂が、World IDを活用して不正耐性のある広告ネットワークを構築しようとしている理由の一つです。これにより、対価目的の「クリックファーマー」ではなく、より多くの人間に効率的にリーチできるようになります。クリエイターにとっても、たとえばSpotifyのストリームシェアモデルと同様の考え方がロイヤルティプールにも適用されます。人間証明によって不正なアーティストが排除されれば、正当な再生に支払われる収益プールの取り分が増加し、プラットフォームの価値を生み出している本物のクリエイターにとって、より魅力的な場になります。

競争優位性:今後、ボットがあふれるプラットフォームから、人間の参加が保証されたプラットフォームへと、ユーザーは確実に移っていきます。たとえば、すべてのマッチング相手が認証済みの人間であることを保証できるマッチングアプリは、保証できないサービスよりも強い競争力を持ちます。ボットのいない公平なチケット購入体験を提供できるチケットプラットフォームは、アーティストやファンから支持を集めます。広告ネットワークでも、インプレッションが実在する人間に届いていることを証明できれば、広告予算を引きつけることができます。人間証明をいち早く導入することは、プラットフォームに明確な競争優位性をもたらします。導入していないプラットフォームは、ユーザー、クリエイター、広告主を、より信頼できる競合へと奪われていくからです。

これらの効果は相互に強まり合い、人間証明の価値は時間とともに積み上がっていきます。より良いユーザー体験は維持率を高め、維持率の向上はより多くの真正なユーザーを引きつけます。オーディエンスの質が高まれば収益化も進み、その収益がさらなる成長投資を可能にします。こうした好循環が積み重なるほど、プラットフォームが人間証明に対して支払ってもよいと考える金額も高まっていきます。

World ID手数料:Worldプロトコルの価値を反映する

人間証明プロトコルが生み出す価値を適切に反映する方法の一つは、それを利用するアプリケーションが得る利益に応じて課金することです。World ID 4.0では、そのような仕組みが可能になり、アプリケーションは認証情報の利用に対するWorld ID手数料を支払う必要が生じる場合があります。一方で、エンドユーザーによる利用は引き続き無料です。

アプリケーションは、既存の認証情報(例:Orbの人間証明の認証情報)を統合したり、自らの組織に属する認証情報(例:信用レポート)を作成して利用したり、他者が発行した認証情報(例:デジタル政府ID)を活用したり、複数の認証情報を組み合わせたりできます。World IDのようなプロトコルによって、こうした認証情報をアプリケーションで利用できるようになり、認証情報の発行者は、その利用に対して手数料を設定できます。

World ID手数料は、次の2つの要素で構成されます。

  • 認証情報手数料:各認証情報の発行者(例:Orb認証情報を発行するWorld財団、または独自の認証情報を発行する企業や機関)は、それぞれの認証情報に手数料を設定し、その収益を受け取ることができます。これにより、発行者は認証情報の作成と維持を継続するインセンティブを得られます。
  • プロトコル手数料:プロトコルは基本手数料を設定でき、さらに認証情報手数料に少額の手数料を上乗せすることもできます。

アプリケーションの観点では、World ID手数料は1つだけであり、認証情報手数料とプロトコル手数料の合計として請求されます。この手数料は、アプリケーション(固有のアプリIDで識別される)がWorld IDの証明をリクエストした際に、自動的に課金されます。

新しいWorld ID 4.0プロトコルは、World ID手数料の支払いを確実に処理できるよう設計されています。手数料が有効になると、アプリケーションのウォレットには、プロトコル上で手数料決済に使う資産をあらかじめ入金しておく必要があります。Web3ネイティブなアプリケーションは、ブロックチェーン上のウォレットに直接その資産を事前入金できます。一方、アプリケーション(たとえばWeb2プラットフォーム)は、ウォレット残高の管理を代行する第三者のプリファンディングサービスを利用し、法定通貨建てで請求を受けることもできます。いずれのモデルでも、最終的にはすべての手数料がトークンで支払われます。

料金設定の仕組み

いくつかの異なる料金設定の仕組みが考えられます(詳しくはこちら)。ただし、多くのアプリケーションにとっては、月間アクティブユーザー単位の手数料が最も適していると考えられます。この方式であれば、World IDがユーザー1人あたり1か月で生み出す価値(たとえばARPUの向上など)と手数料額を簡単に比較できるためです。 また、月額課金は、一度認証されたきり更新されない認証情報が、時間の経過とともに信頼性を失っていくという性質にも合っています。たとえば、ユーザーがWorld IDを失うこともあれば、プロトコルに不正シグナルが追加されることもあります。さらに、その後のユーザー行動によって、そのユーザーが不正または侵害された可能性が判明する場合もあります。そのため、多くのアプリケーションは、人間証明を一度限りの出来事としてではなく、継続的に更新されるべきシグナルとして扱うでしょう。必要に応じてリスクベースで見直し、定期的に更新できることが重要です。これは、既存のパスワードマネージャーで毎月認証が求められるのと似ています。

World IDの証明生成そのものは、証明がユーザーのデバイス上で生成されるため、プロトコル側にはほとんどコストがかかりません。そのため、証明ごとの手数料を設ける必要はありません。こうした前提を踏まえると、認証済みアクティブユーザー1人あたりの月額手数料が、アプリケーションとプロトコルの双方にとって最も適した料金体系だといえます。

手数料の配分とトークンのバーン

各認証情報の発行者は、認証情報手数料の使い道を自由に決めることができます。プロトコル手数料は、事前に定義されたオンチェーンの仕組みに従って配分できます。こうした仕組みにより、プロトコル手数料の一部をネットワーク運営に充てたり、一部をバーンしたりすることが可能です。初期段階では、World財団がこの仕組みの設定を行います。

World IDプロトコルの導入と利用が進み、参加者、アプリケーション、World IDの証明の数が増えることで、発生する手数料も増えていく可能性があります。そして、認証情報の発行者やプロトコルがその収益をエコシステムに再投資することで、さらなる成長が生まれ、相互に強化し合う仕組みにつながります。

World ID手数料計算の例

たとえば、月間アクティブユーザー数が1億人、年間収益が50億ドル、つまりARPUが50ドルのプラットフォームを考えます。しかし実際には、ボットや重複アカウント、偽プロフィールなど、実在しないユーザーが一定数含まれています。最近の調査によると、インターネットトラフィックの50%以上がボットによって生成されています。これらはあらゆるビジネスメトリクスの分母に含まれる一方で、サブスクリプションや商品の購入、購買意図のある広告クリック、収益につながるクリエイターとの関与といった行動は行いません。その結果、実際の収益を水増しされたユーザー数で割ることになり、ARPUは見かけ上低くなります。この例では、実ユーザー数は5,000万人にすぎないと仮定します。この場合、年間収益が同じ50億ドルであれば、実ユーザーあたりのARPUは50ドルではなく100ドルになります。

ここで、World IDの人間証明ソリューションを導入することで、より良いユーザー体験(支払意欲の向上)、ユーザー維持率の改善、ユーザー獲得コストの低下、プロモーションのコンバージョン率の向上、広告収益の増加などにより、補正後ARPUがさらに25%増加するとします。つまり、ARPUは100ドルから125ドルになります。別の見方をすれば、人間証明を導入しなかった場合、補正後ARPUは時間とともに25ドル低下していた可能性もあります。いずれの見方でも、人間証明の導入によってARPUには25ドル分の価値が生まれることになります。

この25ドルのARPU増加のうち20%をWorld IDプロトコルが手数料として回収すると仮定すると、認証済みアクティブユーザー1人あたり年間5ドル、月額では0.4ドルのWorld ID手数料に相当します。長期的には、手数料の総額は、World IDと連携するアプリケーションの数、その機能を利用するOrb認証済みユーザーの数、そして人間証明がそこから生み出す価値によって決まります。

業界分析:World IDの活用余地がある13業界

World IDの価値は、信頼できる人間のネットワークを土台に、新たな価値を生み出せる点にあります。多くの業界では、ネットワークの参加者全員が人間であることを確認できれば、システムをより効率的かつ安全に運用できるようになります。

以下で取り上げる13の業界では、ボット、偽アカウント、不正がすでに大規模に発生しています。しかも、これらの業界は数十億人のユーザーに利用され、年間で数兆ドル規模の収益を生み出しています。つまり、人間証明の課題が解決されないままであれば、その影響は個別市場における個別の不正問題にとどまりません。デジタル経済全体における信頼そのものが、構造的に損なわれていく可能性があります。以下の表では、年間ユーザー数、現在の市場規模(年間収益)、ARPU(ユーザー当たりの平均収益)、そして現在起きているボット活動のうち、World IDが解決できる課題について紹介します。各業界の詳細は参考資料で、出典リンクとあわせて説明します。

業界ユーザー数年間収益ユーザー当たり平均収益(ARPU)World IDが解決できる課題
ソーシャルメディア51億$2,390億$47ボットが誤情報を拡散し、ユーザーを操作し、アルゴリズム配信から本来のコンテンツを押しのけることで、信頼が損なわれる
eコマース28億$6,420億$229ボットが価格をスクレイピングし、偽アカウントや偽レビューを作成し、評価を操作し、希少な在庫を大規模に買い占める
チケット販売5億$530億$106ボットが偽アカウントを使ってチケットを大量購入し、定価を大幅に上回る価格で転売する
広告・クリエイターエコノミー60億$4,110億$69偽インプレッションやクリックによって広告収益が損なわれ、ROIが悪化し、クリエイター向けロイヤルティプールの取り分も奪われる
エンタープライズセキュリティ・リモートワーク6億2,000万$320億$52悪意ある主体がビデオ通話でディープフェイクを使ったり、合成IDによって不正アクセスしたりする
マッチングアプリ3億5,000万$62億$18偽プロフィールが信頼を損ない、実際のユーザーのマッチング機会を奪い、恋愛詐欺にも利用される
ゲーム36億$1,890億$53ボットがゲーム内通貨を稼ぎ続け、実際のプレイヤーのランキングをゆがめ、全体的な体験を損なう
AIエージェント・生成AI9億8,000万$530億$54AIエージェントが人間による明確な委任がないまま行動することで、悪質なボットと区別できなくなる
銀行・決済49億$2.4兆$489悪意ある主体が不正に銀行口座を開設したり、ディープフェイクで他の口座保有者になりすまして口座乗っ取りを行ったりする
ブロックチェーン6億5,900万$560億$85エアドロップやガバナンス投票に対するシビル攻撃や、コンプライアンス上の抜け穴の悪用
行政サービス37億----合成IDによって給付制度を不正利用する
ギグエコノミー25億$5,570億$223ドライバー側では、同じ就労資格を複数人で使い回したり、高度な不正スキームでプラットフォームをだます行為が行われる。顧客側では、返金や特典の不正利用が行われる
旅行・ホスピタリティ14億$6,500億$433ボットがロイヤルティポイントの不正取得、偽予約、自動アカウント作成による特典の不正利用を行う
表1: World IDの主な活用余地がある13の業界の概要。各業界の詳細と出典は参考情報を参照

ソーシャルメディア

問題点:SNSは、年間ユーザー数51億人1、年間収益2,390億ドル2、ARPU47ドルという巨大な市場である一方、数十億規模の偽アカウントという深刻な問題を抱えています。現在のボットは自律的にアカウントを生成し、アンチボット対策を巧みに回避する能力を高めており、結果として、誤情報の拡散、政治的分断の助長、ユーザーの操作、低品質コンテンツの拡散を引き起こしています。これによりユーザーの信頼が損なわれ、規制当局からの監視や規制圧力も強まっています。こうした影響はモデレーション予算にとどまらず、サービスの質やユーザーエンゲージメントの低下としても現れます。Instagram責任者のアダム・モッセリは、「本物らしさを無限に複製できること」、つまりボットが人間を模倣し、合成コンテンツを際限なく生成できることを、2026年における主要なリスクとして指摘しました。また、アルゴリズムによる配信枠は有限であり、偽のエンゲージメントはその枠を消費します。推薦フィードに表示されるボット由来のインタラクションは、その分、実在するクリエイターの露出機会を奪い、リーチや広告収益の取り分、さらには創作意欲までも損ないます。Redditはすでに1日あたり10万件のアカウントをスパムやボット活動を理由に削除しており、RedditのCEOは最近疑わしいアカウントに対して人間認証を求める方針を発表しました。「最近のインターネットは以前とは違い、相手が人間か、それ以外の存在かを見分けるのが難しくなっています」と述べています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:現在、ソーシャルプラットフォームは主に3つのアプローチを用いていますが、いずれにも大きな限界があります。行動検知は、ボットのパターンを一時的に捉えることはできても、ボットが人間の行動をより巧妙に模倣するよう更新されると、すぐに通用しなくなり、それに追いつくには高コストな改修や追加のデータ収集が必要になります。電話番号認証は、バーチャル番号サービスを使えば安価に回避できるため、一人のユーザーが大量のアカウントを運用することをほとんど防げません。政府発行の本人確認書類による認証は、身元確認には一定の効果があるものの、AIによる偽装の対象となりやすく、さらに多くのソーシャルプラットフォームの根幹にある匿名性を損ないます。RedditのCEOも明確に述べているように、このプラットフォームは参加者がAIでなく人間であることを確認する必要がありますが、身元情報の開示を求めることはありません。なぜなら、匿名性はRedditのプロダクトにとって付随的な要素ではなく、プロダクトそのものだからです。現在のどのアプローチも、ボットを排除することと、ユーザーがそのプラットフォームに求める環境を守ることの両立を難しくしています。

World IDで可能になること:World IDにより、プラットフォームは参加者が人間であることを、個人情報を明かすことなく確認できます。プラットフォームは、アカウント作成、投稿、拡散を一人一アカウント単位で制御しながら、個人を特定できる情報は一切収集せず、アカウントがサービス間で紐付けられないことも保証できます。ソーシャルプラットフォームはすでに不正対策に多額かつ増加傾向にあるコストを負っており、プライバシーを侵害する実装はコンテンツの質やユーザー維持率を損なう悪影響をもたらします。そして、そのどちらも収益低下に直結します。World IDはこのジレンマを解消します。プラットフォームは個人情報を保存することなく人間証明を得られるため、データ漏えいのリスクやそれに伴う責任を抑えられます。ソーシャルメディアプラットフォームは広告収益への依存度も高く、広告がボットではなく購買力のある実在する人間に確実に届くようになれば、広告の効果と信頼性はさらに高まります。

eコマース

問題点:eコマースは、年間ユーザー数28億3、年間収益6,420億ドル4、ARPU229ドルの巨大市場です。現在、ボットはeコマースサイトのトラフィックの大きな割合を占めており、偽アカウントの作成、プロモーションの不正利用、レビューや評価の操作、希少な在庫の買い占めなどを引き起こしています。これにより、プラットフォームには直接的なコストが発生し、実際のユーザー体験も損なわれます。2024年のホリデーシーズンには、eコマースサイトのトラフィックの57%がボットによるものでした。さらに、ボットは人間の行動をより巧妙に模倣するようになっており、従来の防御策の有効性を低下させています。悪質なボットはトラフィック全体の31%を占め、サービス規約に違反し、価格やコンテンツのスクレイピング、アカウント乗っ取り、偽アカウントの登録、悪意あるカート放棄などを行います。eコマース企業は、プラットフォーム上の不正による1ドルの損失に対して4.61ドルのコストを負っています。たとえばAmazonは、マーケットプレイス全体での不正、偽レビュー、悪用への対策のために12,000人以上を配置しており、2024年だけで2億7,500万件以上の疑わしい偽レビューをブロックしています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:ECプラットフォームは、検出の効果と実際のユーザーに生じる負担との間で、難しいバランスを迫られています。行動分析は比較的負担が少ない一方で、ますます高度化するボットとのいたちごっこに陥っています。CAPTCHAはユーザーの離脱を招き、さらに今では一般的なAIや安価な外部委託によって突破されるようになっています。eKYCのような負担の大きい手法は、コストや手間、プライバシー上の懸念から、多くのEC用途では受け入れられません。その結果、防御コストは増え続ける一方で、実際の顧客の購買体験は改善されず、むしろコンバージョンに悪影響を与える摩擦を生んでいます。

World IDで可能になること:World IDによって、マーケットプレイスは、特定のアカウント、レビュー、または行動の背後にいるのが、ボットファームではなく一人の人間であることを確認できます。これにより、不正対策にかかる支出の一部を、事後対応型の取り締まりから、質の高いユーザー体験を維持するための予防的な基盤づくりへと移すことができます。その結果、レビューや評価に対する信頼とエンゲージメントが高まり、購買額の増加にもつながります。さらに、World IDを統合することで、eコマースサービスは、チェックアウト時に余計な摩擦を生じさせることなく、一人につき一回だけ利用できるプロモーションや割引を提供できるようになります。また、高需要商品の購入機会をより公平にし、レビューや評価の質、商品の見つけやすさも向上させることができます。

チケッティング

問題点:チケット販売業界は、ユーザー数5億人5、年間収益530億ドル6、ARPU106ドルの市場です。本来、チケット販売プラットフォームは、誰もが公平にアクセスでき、必要な枚数だけを購入し、希望するチケットを正当に入手できる仕組みであるべきですが、現状はそうなっていません。転売業者は自動化ソフトを使って販売開始と同時にチケットを大量購入しており、人間では到底太刀打ちできない速度で取得しています。オンラインチケット販売の約40%が自動化された購入によるものであり、需要の高い販売ではこの割合はさらに高くなります。ある分析では、大規模なコンサート販売におけるトラフィックの96%がボットおよび非招待ユーザーによるもので、正規のファンはわずか4%でした。ニューヨーク州司法長官は、単一のブローカーが4枚制限にもかかわらず、U2のコンサートチケットを1分で1,000枚以上取得した事例を記録しています。テイラー・スウィフトの「Eras Tour」では、転売市場において価格が定価の70倍に達しました。その結果、この市場ではファンやアーティストが得るはずの価値が転売業者へと流れ、プラットフォームにとっても規制上・評判上のリスクをもたらしています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:チケット販売の防御策はいくつもの対策を組み合わせて運用されています。オンライン待機列によるランダムな順番付け、SMS認証による電話番号の確認、CAPTCHAによる人間とボットの識別、行動分析によるボット的な挙動の検出、そして審査済みファンのみを事前販売に招待する認証済みのファンによる事前登録などです。これらの各層には、それぞれ既知の回避手段があります。SMS認証は、Google Voiceのようなバーチャル番号サービスや、大量の使い捨て端末によって突破されます。CAPTCHAは、一般向けのAIや安価な外部委託によって回避されます。行動シグナルも、正規ユーザーの閲覧パターンを模倣するよう訓練されたボットによって回避されます。購入制限も、数千のアカウントを同時に運用することで無効化されます。認証済みのファンによる事前登録も、有効に機能する場合はあるものの、最終的にはボットが突破するよう設計されているアカウント単位の認証に依存しています。たとえば、テイラー・スウィフトの「Eras Tour」の事前販売では、ランダムな英数字構造だったため、アクセスコードが自動化システムによって推測可能でした。Ticketmasterは現在、1日あたり2億件のボットをブロックしており、2019年と比べて5倍に増加していますが、問題は解消されていません。法規制も圧力にはなっているものの、決定的な解決には至っていません。2016年に施行された米国のチケット転売ボット対策法(BOTS Act)のもとで、FTCが対応した事例はほぼ10年でわずか1件にとどまっています。

World IDで可能になること:World IDにより、チケット販売プラットフォームは、1人1購入をより確実に実現できるようになります。ファンは、購入待機列に入る前やチェックアウト時に人間証明を提示することで、個人情報を明かさずに人間であることを証明できます。転売業者が運用する大量の偽アカウントではこれができません。各アカウントごとに別々の認証済みの人間が必要になるため、大量購入は現実的ではなくなります。プラットフォームはこれを選択的に適用でき、ボットによる不正が特に多い高需要の販売にのみ人間証明を求めることも可能です。Worldの人間証明はすでにリカルド・アルホナのファンネットワークで活用されており、事前販売チケットへのより公平なアクセスを実現しています。

広告とクリエイター経済

問題点:広告業界(ソーシャルメディアを除く)と関連するクリエイタープラットフォームは、年間ユーザー数60億7、年間総収益4,110億ドル8、ARPU69ドルの市場です。広告主は、インプレッション、ビュー、クリックが実在する人間の注意を反映し、実際の収益やエンゲージメントにつながることを前提に、広告プラットフォームへ費用を支払っています。ところが実際には、ボット、偽アカウント、自動化エージェントが大量のトラフィックを生み出し、エンゲージメント指標を水増しし、ARPUを押し下げ、実際のオーディエンス価値を生まないまま広告費を浪費させています9。その結果、広告価格や在庫はゆがめられ、重要なROI測定の精度が低下し、広告主とプラットフォームの間の信頼も損なわれます。

クリエイター経済でも同じ問題が起きています。ストリーミングプラットフォームは、再生や試聴が、本物のクリエイターの作品が実在する人間のオーディエンスに届いた結果であることを前提としています。Spotifyは、過去12か月で7,500万件を超えるスパム的なトラックを削除しました。その中には、ボットによる再生でロイヤルティの支払いを不正に得ることを目的として、偽アーティストのアカウントからアップロードされたAI生成音楽も含まれています。さらに、不正ストリーミング向けに作られた楽曲は、全プラットフォームのコンテンツ全体の5〜10%を占める可能性があるとみられています。実在する人間のクリエイターは、アルゴリズム上の可視性やロイヤルティプールをめぐって、背後に人間のいないアカウントから大量に投稿されるコンテンツと競争させられています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:現在の検出アプローチは、既知の不正行動パターンとの照合に大きく依存しています。しかし、検出手法が進化すれば、それに合わせて回避策も進化します。両者が同じAI技術を活用する以上、投資の差が決定的に開くことはなく、コストは双方で増え続けます。2024年には、広告詐欺による広告主の世界全体の損失が1,400億ドルを超え、2028年には1,720億ドルに達すると見込まれています。こうした損失は、長年にわたって検出への投資が続けられてきたにもかかわらず発生しています。クリエイター側でも同様です。配信事業者には、できるだけ多くの楽曲を取り込む経済的なインセンティブがあるため、アカウントの背後に本物の人間がいるかどうかについて、実質的な検証が行われないことがあります。いったん楽曲が公開されると、同じいたちごっこの構図が生まれます。プラットフォームは不審な再生パターンを検出し、ボットはそれに対応して正規の挙動を模倣するようになります。

World IDで可能になること:World IDにより、認証された一人の人間による注目、インプレッション、エンゲージメントだけを切り分けて可視化できるようになります。これにより、広告主のターゲティングや計測精度は大きく向上します。博報堂は、この仕組みを広告ネットワークで試験導入中です。クリエイター経済でも同様に、本物の人間クリエイターであることを示す認証情報を付与することで、AIツールを使っているかどうかではなく、「実際の人間が所有し運用しているアカウント」であることを示せます。これにより、ボットによる大規模な大量投稿は経済的に成立しにくくなります。広告では「認証済み人間」向けの枠をより高いCPMで提供でき、ストリーミングでは偽配信の排除によって正規クリエイターの収益増にもつながります。その結果、市場全体の健全化が進みます。

エンタープライズセキュリティ/リモートワーク

問題点:エンタープライズセキュリティおよびリモートワークは、2025年時点で年間ユーザー数6億2,000万10、年間総収益320億ドル11、ARPU52ドルの市場です。組織は日々、メール、メッセージ、ビデオ通話を通じて、支払いの承認、契約の締結、機密情報のやり取りを行っています。しかし、相手が実在する本人ではなかったり、他人になりすましていたりすれば、金銭的損失や法的リスク、評判上の損害につながりかねません。映像はこれまで、本人確認の決定的な手段とみなされてきましたが、ディープフェイク技術の普及によって、その前提はもはや成り立たなくなっています。ディープフェイク詐欺による組織の被害額は、2025年に15億ドルに達したと推計されています。米国企業の72%は、2026年にAI詐欺が主要な課題になると見込んでいます。実際に大きく報じられた事例では、CFO(最高財務責任者)のディープフェイクによる送金指示によって、企業が2,500万ドルの損失を被りました。さらに、2026年の調査では、回答者の72%が、直近12か月でAIを使った攻撃によって自社利益の最大5%を失ったと答えており、94%が今後1年の攻撃リスクを懸念しています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:現在のリモートセキュリティは大きく二つの要素で成り立っています。ひとつは、識別子、セッショントークン、二要素認証キーを保持するデバイスの安全性、もうひとつは映像による本人確認です。デバイスの安全性には多額の投資が行われていますが、完全ではなく、端末の盗難やアカウントの乗っ取りは依然として発生しています。一方、映像の真正性の検証は、AIによって生成・加工された動画の痕跡を検出する手法に依存しており、進化し続けるディープフェイクとの終わりのない競争にあります。誤検出を避けながら高い精度を維持する必要がある一方で、ディープフェイク攻撃のコストは下がり続けています。

World IDで可能になること:World IDは、同一人物であることの継続的な確認によって、既存のデバイスセキュリティを補完します。ユーザーは自身のWorld IDを企業アカウントに連携し、特に重要な操作やメッセージにおいて、Face Auth(顔認証)を通じて、その端末をユーザー本人が引き続き管理していることを確認できます。これによりWorld IDは、従来の2要素認証と同様の追加要素として、単にデバイスを継続的に保持していることだけでなく、同一人物であることも確認できます。映像の信頼性についても、World IDのDeep Face機能によりディープフェイクによるなりすましを防ぐことができます。ユーザーはWorld IDをビデオストリームに連携し、Deep Faceがビデオ内の映像とOrbで取得した精度の高い画像を照合します。こうして、同一人物であることの継続的な確認とDeep Faceの統合により、企業に追加の防御手段を提供します。

マッチングアプリ

問題点:マッチングアプリ市場は、年間ユーザー数3億5,000万人12、年間収益62億ドル13、ARPU18ドルの市場です。Arktose Labsの報告によると、2023年1月から2024年1月の間に、ボットによる攻撃が2,087%も増加しました。マッチングアプリにおけるディープフェイクは、現在のAI悪用の中でも特に深刻な例のひとつです。最新のボットは自然なやりとりを続けることができ、リアルなプロフィール写真を生成し、感情表現まで巧みに模倣して検知を回避します。エージェントはスワイプ、マッチ、メッセージ送信を自動で行い、数千の偽プロフィールを同時に運用できます。2025年のNorton調査では、マッチングアプリ利用者の6割が、少なくとも一度はAIによる会話に遭遇したと考えています。ユーザーがボット(またはその疑い)に遭遇すると、他のユーザーとのやりとりを控えたり、「この相手は本物ではないのでは」と疑念を持つようになります。その結果、エンゲージメントや継続率が低下し、ネットワーク効果に大きく依存するサービスでは、その影響がさらに広がります。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:電話認証はバーチャル番号サービスで簡単に突破されます。写真審査も生成AIによる画像の進化により、その有効性が低下しています。かつては応答速度やメッセージ頻度、会話の流れといった行動特性からボットを識別できていましたが、現在ではマッチングや恋愛の文脈向けに最適化された大規模言語モデルが人間を巧みに模倣できるようになっています。2025年の研究では、人間がGPT-4.5を73%の確率で人間と誤認したと報告されています。報告ベースのモデレーションは、事後対応が前提の仕組みであり、ユーザーが通報した場合にのみ機能します。離脱したユーザーは検知されません。また、不正対策を強化すると、実際のユーザーを排除してしまうリスクが高まり、エンゲージメント指標の悪化につながります。さらに、不正アカウントを削除しても、同じ人物が新たなアカウントを作成できるため、根本的な解決にはなりません。その結果、ボットや悪質なユーザーが常に存在し続け、サービス品質を損なう悪循環が生まれます。

World IDで可能になること:World IDにより、マッチングアプリは、本人情報の開示や政府発行の本人確認書類、サービス間のデータ共有を行うことなく、そのプロフィールがAIではなく人間のものかを確認できるようになります。ユーザーはアカウント作成時や連絡を開始する前に、匿名で行うことができる人間証明を提示できます。どのような名前や写真、プロフィールを選んでも、そのプロフィールが実在する人間に紐付いていることが保証されるため、個人情報は守られます。プラットフォームは、マッチング機能の利用時、最初のメッセージ送信時、検索結果への表示時など、必要な場面で人間証明を求めることができます。また、ユーザープロフィールに人間であることを示す「認証ヒューマンバッジ」を表示し、他のユーザーに対する信頼のシグナルとすることも可能です。1人1アカウントの保証により、複数プロフィールを使った不正も直接的に防ぐことができます。すでにTinderでは、日本においてWorld IDを連携し、有効な人間証明を持つユーザーに「認証ヒューマンバッジ」を表示する取り組みが始まっています。

ゲーム

問題点:ゲーム業界は、年間ユーザー数36億人14、年間収益1,890億ドル15、ARPU53ドルの市場です。ゲームプラットフォームは、Lost Ark(20232025)、RuneScape(20242025)、World of Warcraft(2023)Lineage2M(2025)などで見られるように、数百万規模のボットアカウントへの対応を迫られています。RuneScapeでは、ボットがプレイヤーの14%を占める事例があります。多くのボット活動は「ファーミング」と呼ばれるもので、繰り返しゲーム内の行動を行うことで通貨やアイテム、アップグレードを獲得し、それを現金化します。こうしたボット活動は、ゲーム内経済を歪め、特定の機能へのアクセスを妨げるなど、公平性への信頼を損なうため、プレイヤーにとって好ましくありません。運営側にとっても、プレイヤー離れを招くだけでなく、投資家や広告主が依拠するエンゲージメント指標を歪める要因となります。例えばRobloxは、この問題に関連してSECの調査を受けています。ゲーム業界は、不正トラフィックに占めるボット攻撃の割合が最も高い分野とされています。その結果、ボーナスの不正利用や多重アカウント、偽エンゲージメントといったファーストパーティ不正だけでも、2024年には28億ドルのコストが発生しています。高度なAIや数千人規模の人員によるモデレーション体制が導入されているにもかかわらず、この問題は依然として解決されていません。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:問題のあるアカウントを検知して停止する現在の方法には、根本的な問題があります。アカウントを停止しても、不正者はほぼコストをかけずに、すぐ新しいアカウントを作成できます。行動検知も、ボットが人間の行動を巧妙に模倣するようになると、すぐに通用しなくなります。レート制限や端末情報を使った識別も、プロキシの切り替えや仮想マシンで回避されます。iGamingプラットフォームでは、2024年に6.48%の不正率が報告されており、市場によっては新規申込者の8%以上が不正者と判定されています。また、オペレーターの83%が状況の悪化を報告しています。その結果、スタジオは開発リソースを消費し続ける終わりのない取締りサイクルに陥りますが、根本的な構造は変わりません。アカウントが無料かつ匿名で作成できる限り、偽アカウントの大規模運用は利益を生み続けます。

World IDで可能になること:認証済みのWorld IDに紐付けることで、アカウント停止の回避は格段に難しくなります。何百ものアカウントを同時に運用してゲーム内通貨やアイテムを稼ぐような不正は、経済的に成立しにくくなり、新規アカウント作成を悪用した特典の不正利用も防げます。ゲーム運営側は、ランク戦、賞金付き大会や現金報酬が関わるプレイなどの場面に限って認証を求めることができ、カジュアルプレイには影響を与えずに運用することも可能です。Razerはすでにこの方向で取り組みを進めており、「Razer ID verified by World ID」を導入して、プレイヤーアカウントをWorld IDに連携しています。

AIエージェント・生成AI

問題点:AIエージェントと生成AIは、年間ユーザー数9億8000万人16、年間収益530億ドル17に達する急成長分野です。これをもとにするとARPUは54ドルとなりますが、エージェントの普及ペースを踏まえると、この数値もなお保守的といえます。AIエージェントとは、ユーザーに代わってWebサイトを閲覧したり、フォームを入力したり、購入や旅行予約を行ったり、外部サービスとやり取りしたりするAIシステムです。しかし、受け手となるプラットフォームから見ると、エージェントはボットと見分けがつきません。誰がその行為を許可したのか、またその結果に誰が責任を負うのかといった、本来そこにあるはずの人間の文脈が見えなくなってしまうからです。これにより、2つの問題が生じます。1つ目は、ボット対策を行うプラットフォームが正規のエージェントを許可する判断材料を持てないことです。ボットを遮断しようとすると、正当なエージェントまでブロックすることになり、エージェントの利便性が損なわれるだけでなく、正当なトラフィックまで制限してしまいます。2つ目は、問題が起きたときの責任の所在が曖昧になることです。たとえば、エージェントがユーザーに代わって意図しない購入を行った場合、後になって紛争につながり、加盟店にリスクをもたらす可能性があります。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:AIエージェントはまだ新しい技術であり、エージェントが人間に代わって行動していることをどう証明するかは、今も研究と開発が進められている段階です。ユーザーがすでに利用しているサービスであれば、本人が共有した認証情報を使ってエージェントを認証することは比較的容易です。 しかし、このように認証情報をまとめて共有する仕組みには、大きな問題があります。まず、エージェントと本人の区別がつかなくなってしまいます。また、新しい相手とのやり取り、たとえばエージェントによるWebサイトの閲覧のようなケースには対応できません。さらに、エージェントが認証情報を漏えいさせてしまうリスクもあります。

World IDで可能になること:World IDによって、エージェントは既存の関係がある相手だけでなく、あらゆるやり取りの場面で使える、匿名の人間による承認の証明を持てるようになります。人間はエージェントに委任の証明を持たせることができ、エージェントは自分が人間の代理として行動していることをプラットフォームに示せます。プラットフォーム側は、その人間に対応する匿名の識別子を受け取れるため、正当に委任されたエージェントと悪意のあるボットを区別できます。エージェントの行為に対する責任は引き続き人間が負い、プラットフォーム側も必要な管理を続けられます。委任されたエージェントが問題を起こした場合、プラットフォームはその人間に対応するエージェントの利用を制限したり、停止したりできます。深刻な場合には、その人間とのやり取り自体を完全に止めることもできます。

World IDはまた、エージェントが行う特定の行為について、本人がその内容を確認し、承認したことを証明するためにも使えます。たとえば購入の場面では、プラットフォームはこれによって、後のトラブルを懸念することなく、エージェントによる取引を安心して支えられるようになります。組織も、リスクの高い行為に対して人による承認の証明を活用することで、コンプライアンスを守りながら、責任を明確にし、運用リスクを管理したうえでエージェントを導入できます。

WorldはすでにAgentKitを公開しており、さまざまな場面で、エージェントが人間から承認を受けていることを証明できる仕組みを提供しています。エージェントの普及が進むほど、その経済的な影響も大きくなっていきます。エージェントがビジネスの標準的なインフラになっていく中で、それをボットと見分けられないプラットフォームは、一方で正当なトラフィックを失い、もう一方でボットによる悪用を防げないままになるという、二重のコストに直面することになります。

銀行・決済

問題:銀行・決済分野は、年間ユーザー数49億人18、年間収益2.4兆ドル19という非常に大きな市場で、ARPUは489ドルにのぼります。 現在、金融コンプライアンス(KYC/AML)やアカウント回復は、映像や書類を信頼できるという前提の上に成り立っています。たとえばドイツのフィンテック企業で口座を開設する場合、ユーザーは担当者とのビデオ通話によるeKYCを行うのが一般的です。このプロセスでは、頭を動かしたり、本人確認書類を見せて角度を変えたりしながら、カメラを見て個人情報を口頭で答えることで、生体情報の確認とディープフェイクの判別が行われます。こうした手間のかかる対応が必要とされるのは、金融機関が高度なAIボットによる攻撃の格好の標的となっているためです。実際に、アカウント乗っ取りによる被害は160億ドルに達しており、このような被害の後には、顧客の42%がその金融機関を離れています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:映像ベースのeKYCや本人確認は金融業界で広く使われていますが、実際には、ますます高度化するAIモデルとのいたちごっこになっています。現在のディープフェイクモデルは、実際に現場で使われている多くの認証モデルをすでに突破できる水準に達しています。これに対して業界では、映像に対する追加の確認を何重にも重ねていますが、ディープフェイクの精度が現実と見分けがつかないレベルに達すれば、こうした対策だけでは十分ではなくなる可能性があります。検知そのものが現実的ではなくなっていくからです。

World IDで可能になること:World IDの人間証明は、映像の異常を後から検知する仕組みではなく、専用ハードウェアであるOrbが取得する精度の高い画像に基づいています。そのため、人間証明そのものがディープフェイクの影響を受けません。World IDのDeep Face機能を使えば、ユーザーは自分の人間証明を映像に関連付け、その映像に映っている人物が対応するWorld IDの保有者であることを証明できます。これは、口座の初回開設や、特に重要な取引の承認といった場面で活用できます。銀行やフィンテック企業はすでに、リスクスコアリングをはじめとする不正対策の仕組みに多くの投資を行っており、不正対策技術への支出は2024年に163億ドルと推計されています。World IDはこうした既存の枠組みに自然に組み込むことができ、システム全体の精度向上に貢献します。

ブロックチェーン

問題:ブロックチェーンは、年間ユーザー数6億5,900万人20、年間収益560億ドル21の産業で、ARPUは85ドルにのぼります。 これまでブロックチェーンは、基本的に擬名的な仕組みとして使われてきました。そのため、そのウォレットが何人の人に使われているのか、あるいはそもそも人によるものなのかさえ分からないことが少なくありません。これはユーザーに一定のプライバシーをもたらす一方で、ブロックチェーンの活用が広がるにつれて、人間であることを確実に証明することが必要な場面も増えています。たとえば、公平なトークンairdropや投票、担保の少ない融資、利用回数に制限のある無料サービス、レピュテーションシステムなどです。近年では、決済(Stripe、Circle)、株式取引(Robinhood、Nasdaq、NYSE)、証券発(たとえばSuperstate)など、従来はオフチェーンだった分野も大きくオンチェーンへ広がっています。こうした新しい分野でコンプライアンスやリスク管理を実現するには、完全に擬名的な仕組みだけでは不十分です。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:これまでブロックチェーンでは、「AIではなく一人の人間」であることを証明する仕組みがなかったため、複数ウォレットによる「シビル攻撃」を防ぐには、別の手段に頼るしかありませんでした。たとえば、資金の拠出額に応じたairdrop、保有量に応じたトークン投票、一律のガス代、担保を必要とする設計などです。 しかし、こうした金融化された仕組みは、本来の目的という面でも、経済的な面でも、必ずしも望ましいものではありません。中には、取引ネットワークを分析してシビルを検出しようとしたairdropもありましたが、トランザクションデータだけでは見抜ける範囲に限界があり、大きな失敗も起きています。たとえばCelestia(12)、Arbitrum(12)、MYXなどです。また、eKYC情報をウォレット所有の暗号学的証明と結び付ける方法もあります。これは機能する一方で、eKYC事業者に過度な信頼が集中してしまいます。そうなると、その事業者がユーザーを複数のウォレットや取引にまたがって特定できてしまうという問題があります。

World IDで可能になること:ブロックチェーン技術における大きな課題の1つは、信頼できて、なおかつプライバシーを守れる人間証明がなかったことです。これがなければ、プロトコルは公平性を担保するために、資本を代わりの指標として使うしかありませんでした。たとえば、トークン保有量に応じたガバナンス投票、資本量に応じたairdrop、過剰担保を前提とした融資などです。World IDによって、シビル耐性は現実のものになります。これにより、プロトコルは認証済みの人間を、資本の多寡にかかわらず平等に扱えるようになります。これはすでに実運用されています。たとえば、World Chain上の無担保融資は、人間証明がなければ仕組みとして成り立たないプロダクトカテゴリです。Priority Blockspace for Humansも同じ考え方をインフラに広げたもので、認証済みの人間に対して、ボットよりも公平なかたちでトランザクション処理の機会を提供します。

オンチェーン金融の拡大とともに、この経済的な機会もさらに広がっています。StripeはBridgeを11億ドル規模で買収し、VisaはTempoの初期バリデーターとして参加しています。CircleはArcを立ち上げ、Intercontinental ExchangeはOKXに戦略投資を行いました。こうした新しい金融インフラが大規模に機能するには、「一人の人間につき一つ」という前提を支える仕組みが欠かせません。しかも、それはプライバシーを損なわずに実現される必要があります。World IDは、そのための基盤です。米国の5兆ドル規模の消費者向け信用市場が、これまでブロックチェーンプロダクトにとって手の届きにくい領域だったのは、無担保与信に必要な「人間であることの証明」が欠けていたからです。World IDは、この欠けていた基盤を埋めることで、この市場を初めてオンチェーンに開きます。

行政サービス

問題点:米国会計検査院(GAO)の推計によると、COVID-19パンデミック中に支払われた失業保険のうち、1000億〜1350億ドルが不正受給に流れた可能性があります。これは、給付総額の11〜15%に相当します。背景にあったのは、ボットが州の申請ポータルに合成IDを使った申請を大量に送り込み、1つのIPアドレスから数百件もの不正請求を、人間の審査が追いつかないスピードで行っていたことです。さらに2025年6月には、米司法省(DOJ)が史上最大の医療詐欺摘発を発表しました。この摘発では、全米50の地区で324人が起訴され、偽の身元情報を使った患者に対するMedicareの不正請求は、総額146億ドルにのぼるとされています。こうした大規模な制度は、本来、人間の申請者を前提に設計されていました。しかし実際には、その申請の背後に本当に実在する人がいるのかを確認する手段を持っていなかったのです。

各国政府もこの問題を認識しています。インドの生体認証IDシステムAadhaarは、福祉制度におけるこうした「架空受給者」を排除することを目的に導入され、現在では14億人以上が登録しています。その目的自体は妥当です。 しかし、中央集権的な生体データベースは攻撃者にとって魅力的な標的でもあります。2023年には8億1500万件のAadhaar記録がダークウェブ上で売りに出されたとされており、しかも一度漏えいした生体認証情報はリセットできません。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:従来の認証は、書類やデータベースに大きく依存しています。しかし、そうした情報は年々偽造しやすくなっています。実在する情報に偽の情報を組み合わせる合成ID詐欺は、政府の制度を狙った詐欺の中でも、特に急増している手口です。さらに、中央集権型の仕組みは、障害や攻撃が起きたときに大きな影響が一か所に集中しやすいという弱点も抱えています。加えて、プライバシーを大きく損なう認証手法は、それ自体が別の問題を生みます。たとえば、誤検出によって本来支援を受けるべき人が排除されてしまうことや、何億人もの市民の機微情報を保管することで、法的リスクや運用上の負担が大きくなることです。

World IDで可能になること:World IDは、先ほどのGAOの推計が示すような、政府給付を狙った大規模な不正の抑止に役立ちます。しかも、この問題は失業保険だけに限りません。政府給付を狙った詐欺は、2020年から2024年の間に242%増加しています。World IDは、機微な個人データを中央で保管することなく、人間であることを証明できます。市民は、自分が実在し、かつ唯一の人間であることを示したうえで、必要に応じて年齢や居住地といった特定の事実だけを、本人確認情報を明かさずに証明できます。これにより、給付プログラムでは、各申請を認証済みの一人の人間に結び付けられるようになります。その結果、合成IDを使った不正や、ボットによる大量申請を防ぎやすくなります。さらに、World IDのゼロ知識アーキテクチャによって、政府は必要な確実性を確保しながら、中央集権型の仕組みで問題になりがちなデータ管理上の負担や監視への懸念を抑えることができます。

ギグエコノミー

問題点:ギグエコノミーは、ユーザー数25億人22、年間収益5,570億ドル23にのぼる巨大な市場で、ARPUは223ドルです。 この分野のアプリは、単に仕事やサービスを仲介しているだけではありません。運転手や配達員、タスク担当者が本当にその本人であること、そしてサービスを依頼する利用者が正当な顧客であること。そうした「相手を信頼できること」そのものが、成り立ちの土台になっています。だからこそ、不正はこの市場の両側を同時に揺るがします。提供者側では、アカウントが売買や貸し出しの対象となり、未認証の労働者が審査をすり抜けて、他人の信用や実績を使って働けてしまいます。実際、2024年には18人が2000件以上の盗難IDを使い、無資格のドライバーにアカウントを貸し出して、2年間で約80万ドルを得ていた事例が明らかになりました。一方で、利用者側でも、偽アカウントを使った返金の不正利用や支払い詐欺、マネーロンダリングが広がっています。しかも、こうした行為は一部の例外ではありません。Z世代・ミレニアル世代のギグワーカーの31%が、アカウントを売却または貸し出した経験があるという調査結果も出ています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:プラットフォームには、構造的な非対称性があります。提供者側には認証のための負担を課しやすく、たとえばUberでは、ドライバーにランダムな自撮りを求めて登録写真と照合する仕組みが使われています。しかし、利用者側で同じように認証を強めると、登録や利用の途中で離脱が増え、コンバージョンが下がってしまいます。そのため、利用者側の認証は限定的になりがちです。Uberが2024年に導入した乗客認証も、まさにその理由から厳格には運用されていません。結果として、プラットフォームは取引の一方だけを認証し、もう一方をほぼ開いたままにしています。しかも、不正の被害が積み上がるのは主に利用者側です。返金の不正利用、プロモーションの悪用、偽アカウントの作成は、いずれも利用者側のアカウントが作りやすく、実在する人に結び付きにくいことに依存しています。

World IDで可能になること:World IDは、この非対称性を埋める手段になります。提供者側では、Orbが取得する精度の高い生体画像が、信頼できる確認の基準になります。利用者側でも、認証済みユーザーが増えるほど、World IDを使うハードルは下がっていきます。すでに持っている認証情報を提示するだけで済むため、アカウント作成時に人間証明を求めても、利用者の離脱を抑えやすくなります。2024年のTransUnionの調査では、消費者の3人に1人がギグプラットフォーム上で詐欺被害を経験しており、さらに75%が、そうした被害に遭えば他のプラットフォームに移るか、利用をやめると答えています。この離脱リスクは、経済的な影響の大きさをよく示しています。World IDの利用者が増えるほど、ギグプラットフォームはコンバージョンを大きく損なうことなく、利用者側の認証をより広く展開できるようになり、大切なユーザーを守りやすくなります。

旅行・ホスピタリティ

問題点:旅行・ホスピタリティ産業は、年間ユーザー数14億人24、年間収益6,500億ドル25にのぼる大きな市場で、ARPUは433ドルです。ロイヤリティプログラムは、顧客の継続利用を支える重要な資産である一方で、最も悪用されやすい領域の1つでもあります。大手の旅行・ホスピタリティ企業は、ロイヤリティ詐欺だけで年間10億ドル以上の損失を被っており、ロイヤリティにひも付いたアカウントは、通常のアカウントに比べて4〜5倍の頻度で攻撃を受けています。ポイントやマイルは、すでにデジタル通貨のような価値を持つようになっており、盗難や売買、現金化がダークウェブ上で大規模に行われています。2024年第1四半期には、航空業界への攻撃の94%がボットによるものとされ、旅行業界は世界全体のAI駆動型ボット攻撃の27%を受ける、最も攻撃の多い分野となりました。さらに、偽アカウントも大量に作られています。目的は、プロモーション特典の不正取得、予約を伴わない在庫の確保、紹介ボーナスの悪用などです。加えて、AIエージェントが旅行予約を自律的に行うようになりつつある今、プラットフォームは、旅行者の代理として正当に動いているエージェントと、不正を行うボットとを見分けにくくなっています。

なぜ現在のアプローチでは不十分なのか:旅行サイトの9割以上は、単純なボット攻撃に対してさえ十分に守られていません。その背景にあるのは、アカウントの本人確認がまったく行われていないか、行われたとしても新規登録時だけで、その後はほとんど確認されないという構造的な弱点です。認証情報を使った総当たり攻撃、アカウント乗っ取り、偽アカウントの作成は、いずれもこの弱点を突いています。さらに、行動ベースの検知も通用しにくくなっています。ボットは正規の予約フローを学習し、実際の旅行者と見分けがつかない動きをするようになっているからです。

World IDで可能になること:World IDは、各アカウントを一人の人間に結び付けることで、多くのロイヤリティ詐欺の出発点となっている偽アカウントの作成を抑えます。新規アカウントを繰り返し作って初回特典を不正に取得するようなプロモーションの悪用も、経済的に見合わなくなります。さらに、ポイントは、それを貯めた本人だけが獲得・利用できるようになります。AIエージェントの問題にも、明確な対応策があります。World IDで認証された人から委任を受けたエージェントは、人間による承認の証明を提示できます。これにより、プラットフォームは、旅行者の代理として正当に動くエージェントには安心して対応しつつ、自律的に不正を行うボットは遮断できるようになります。世界の旅行ロイヤリティプログラム市場は290億ドル規模とされており、顧客維持にとって重要な資産です。しかし実際には、ポイントの盗難や不正な交換、信頼の低下によって、その価値は損なわれています。これを守ることは、単なるコンプライアンス対応ではなく、収益に直結する重要な経営課題です。

Footnotes

  1. 1.
  2. 2.
  3. 3.
  4. 4.
    これは、eコマースの流通総額6.42兆ドルと、サービスの手数料率10%を前提とした推計です。 https://www.shopify.com/blog/global-ecommerce-sales, https://www.oberlo.com/statistics/global-ecommerce-sales-growth
  5. 5.
    米国人口の52%が毎年ライブイベントに参加しており、この比率をグローバルな値に換算しています。https://wifitalents.com/concert-statistics/
  6. 6.
  7. 7.
    年間のインターネット利用者数を用い、すべての利用者が少なくとも1回はデジタル上で広告を見ていると仮定しています。https://datareportal.com/global-digital-overview
  8. 8.
    これは、デジタル広告全体の支出6500億ドルから、ソーシャルメディア分の2390億ドルを除いた値です。なお、このデジタル広告全体には、検索、動画、リテール、モバイルアプリなどが含まれます。https://finance.yahoo.com/news/digital-ad-spending-market-size-123300420.html?guccounter=1
  9. 9.
    「広告詐欺とは、悪意ある者がデジタル広告で偽のクリックやインプレッション、コンバージョンなどを発生させる行為です。こうした不正な操作の目的は、正当な価値を提供することなく、広告費を少しずつ継続的に搾取することにあります。」詳しくはこちら:https://www.anura.io/blog/truth-about-what-ad-fraud-costs
  10. 10.
    Microsoft Teamsには320M DAUがあり、Zoomには300M DAUがあります: https://www.demandsage.com/microsoft-teams-statistics/, https://www.demandsage.com/zoom-statistics/
  11. 11.
    これは、ビデオ会議市場とID・アカウント管理業界を合算した値です。https://electroiq.com/stats/video-conferencing-statistics/, https://www.skyquestt.com/report/identity-and-access-management-market
  12. 12.
  13. 13.
  14. 14.
  15. 15.
    この推計値はやや控えめで、他の資料では世界のゲーム市場規模は2,980億ドルとされています。https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/gaming-industry, https://newzoo.com/resources/trend-reports/newzoo-global-games-market-report-2025
  16. 16.
  17. 17.
  18. 18.
    これは、世界全体における銀行口座保有成人数の統計です。https://www.worldbank.org/en/publication/globalfindex
  19. 19.
  20. 20.
  21. 21.
  22. 22.
    これは、2024年時点の世界のライドシェアサービス利用者数です。なお、デリバリーアプリの利用者数は30億人ですが、重複を考慮し、ここでは少ない方の数値を採用しています。 https://www.marketgrowthreports.com/market-reports/ride-hailing-app-market-114672, https://www.prosus.com/~/media/Files/P/Prosus-CORP/documents/livelihoods-in-a-digital-world.pdf
  23. 23.
  24. 24.
  25. 25.

免責条項

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